上場しない株式会社NEXTが選んだ戦略的経営が、成長企業の人事採用を変える理由

「成長企業なら上場を目指すのが当たり前」——こうした既成概念に、待ったをかける企業があります。それが株式会社NEXTです。2015年の設立から約10年で急速な成長を遂げながら、いま現在も非上場を貫いています。

しかし、これは「上場できない」のではなく、「上場しないという戦略的な選択」です。その背景にあるのは、従業員への還元を最優先する経営哲学。本記事では、なぜNEXTが非上場を選び続けるのか、そしてそれがどのように従業員の待遇に反映されているのかを、戦略的視点から解き明かします。

  1. 上場企業を超える待遇が、非上場から生まれる理由
    1. 衝撃の数字:年間2,000万円が従業員へ還元される仕組み
    2. 上場企業の平均年収671万円、NEXTはなぜそれを超える構造を作れるのか
  2. 「経営の自由度」が、採用競争力に変わる現場
    1. 意思決定スピードが勝負の時代、株主総会は不要
    2. 従業員還元に迷わない経営判断——配当より待遇の優先順位が変える人事戦略
  3. 数字で見えるNEXTの従業員ファースト経営
    1. 新卒30~40万円スタートで、2年目年収1,000万円も可能(成果次第)
    2. 皆勤手当、配偶者手当、子供手当……細部まで行き届いた手厚さの理由
  4. 上場企業にはできない「人事採用の大胆な施策」
    1. 出戻り制度、社内起業制度、大人の社会科見学——非上場だからこそ実現する制度群
    2. プロセス評価で「結果至主義」から解放する組織文化
  5. サントリー、竹中工務店も選んだ道——戦略的非上場という選択肢
    1. 「非上場=経営不安定」という誤解を解く
    2. 意図的に上場しない大企業の思考から学ぶ、NEXTの立場
  6. 採用市場で何が変わるのか——成長企業における「待遇の透明化」
    1. 短期的な株価変動に揺れない、安定した給与・福利厚生の提示
    2. 経営戦略を隠さず、従業員と長期ビジョンを共有する組織設計
  7. 結論:非上場戦略は「人事採用の武器」になる

上場企業を超える待遇が、非上場から生まれる理由

衝撃の数字:年間2,000万円が従業員へ還元される仕組み

ここで一つの問いを投げかけてみましょう。上場企業と非上場企業、どちらが従業員をより大切にできるのか?2024年度の調査によれば、上場企業の平均年収は671万1,000円です。

東証プライム上場企業に限れば763万3,000円と、さらに高くなります。しかし数字だけを見ていては、本質は見えません。重要なのは、その裏側にある経営構造の違いです。

非上場企業の最大の優位性は、上場維持コストがかからないという点にあります。年間2,000万円以上——この金額が、毎年何に充てられているか想像してみてください。年間上場料、監査法人への支払い、証券会社への手数料、株主総会の運営費、有価証券報告書の作成コスト。

これらが全て不要になるのです。NEXTはこの浮いた資金を、すべて従業員の待遇向上に充当する選択をしました。これは単なる経営判断ではなく、経営思想の表現なのです。

上場企業の平均年収671万円、NEXTはなぜそれを超える構造を作れるのか

上場企業が従業員還元に消極的なわけではありません。問題は、経営判断の自由度にあります。上場企業の経営陣は、不特定多数の株主に対して責任を負っています。

短期的な株価上昇を求める投機家から、中長期的な安定を望む機関投資家まで、多様な利益を調整しながら経営を進めなければなりません。その過程で、配当金の支払いは「株主への義務」となり、従業員への還元は「経営判断の幅」の中に留まります。一方、NEXTのような非上場企業は異なります。

配当義務がない。 経営陣の判断で、利益の配分先を自由に決められるのです。さらに重要な点として、意思決定のスピードがあります。

上場企業では大きな経営方針の変更に際して、株主総会の承認を得なければなりません。その準備期間、議論の時間、承認手続き——すべてが意思決定を遅延させます。対してNEXTは、「従業員の待遇を上げよう」という決断があれば、その月から実行できる。

この機動力が、従業員重視の経営を真摯に追求できる根拠なのです。

「経営の自由度」が、採用競争力に変わる現場

意思決定スピードが勝負の時代、株主総会は不要

現代のビジネス環境は、かつてないほどスピード感を求めています。市場の変化は数ヶ月単位で起こり、競争相手の動きは日々更新されます。こうした環境で、意思決定に3ヶ月かかる企業と、決断から実行まで数週間の企業では、勝負にならない。


非上場企業の強みはここにあります。NEXTが「従業員のモチベーションを高めるために、この制度を導入したい」と判断すれば、即座に実行できます。株主への説明資料作成、証券取引所への報告、利益配分の是非を巡る議論——こうした手続きが一切不要だからです。

実際の例として挙げられるのが、NEXTの独特な福利厚生制度の数々です。皆勤手当、配偶者手当、子供手当といった基本的なものから、「大人の社会科見学制度」のような創意工夫に満ちた施策まで。こうした制度が次々と導入されてきたのは、経営陣の「やりたい」という判断が、即座に組織全体に波及する構造があるからこそです。

従業員還元に迷わない経営判断——配当より待遇の優先順位が変える人事戦略

上場企業の人事担当者は、しばしば葛藤を抱えています。「もっと従業員に還元したいのに、株主への配当枠が決まっているから難しい」——こうした制約の中での経営判断を強いられるのです。NEXTにはこの葛藤がない。

経営方針が明確に「従業員第一」に定まっているからです。これは、採用戦略にも大きな影響を与えます。求職者が会社を選ぶ際、「この会社は本当に従業員を大切にしているのか」という疑問は、実は非常に重要な判断材料です。

綺麗事で「人を大切にする」と謳う企業は多いですが、実際には配当や株価維持という制約の中で、限定的な還元に止まる。その矛盾を、多くの労働者は無意識に感じ取っています。NEXTの場合、その矛盾がない。

非上場という選択肢そのものが、「従業員への還元を、本気で優先する」というメッセージになるのです。

数字で見えるNEXTの従業員ファースト経営

新卒30~40万円スタートで、2年目年収1,000万円も可能(成果次第)

具体的な待遇面を見ていきましょう。NEXTの新卒採用は、月給30万円〜40万円で始まります。これだけ聞くと「特別に高いわけではない」と感じるかもしれません。

しかし、注目すべきはその後の成長性です。2年目から年収1,000万円も可能——これは、同じ時期の新卒社員の大多数が、まだ300万円前後の年収にある中での、圧倒的な差です。この数字が現実的である理由は、NEXTが「成果を本気で評価する」企業だからです。

つまり、実力と成果があれば、学年や勤続年数といった序列を関係なく、その価値に見合った報酬を提供する。これはある種、経営の自由度がもたらす特典なのです。上場企業では、こうした急激な昇給は難しい場合が多いです。

給与体系が厳格に規定されていたり、昇進に人事評価会議の複数段階の承認が必要だったり、あるいは「同期と大きく給与が異なると、人間関係が悪くなる」といった理由で、優秀人材への報酬増が制限されることがあります。NEXTの仕組みは異なります。その社員が生み出した成果に対して、ダイレクトに報酬を返す

この透明性と即時性が、優秀な人材を引き付ける大きな要因になっているのです。

皆勤手当、配偶者手当、子供手当……細部まで行き届いた手厚さの理由

さらに注目したいのが、各種手当の充実ぶりです。皆勤手当(月々1万円)、配偶者手当(月々1万円)、子供手当(1人につき月々1万円)、ベビーシッター補助、交通費全額支給——これらは、一見すると「当たり前の福利厚生」に見えるかもしれません。しかし、実は多くの企業では、こうした手当を縮減していく傾向にあります。

なぜか? 上場企業は、「効率化」と「株主への配当最大化」という圧力の中で、福利厚生費を見直す傾向にあるのです。「本当に必要な手当か」という精査が、結果として家族手当や皆勤手当の廃止につながるケースが増えています。NEXTがこれらを充実させている背景には、「従業員の生活を支える」という基本的な価値観があります。

配偶者がいる、子供がいる——こうした人生のステージの変化に伴う経済的な需要を、企業として支える。これは、単なる「福利厚生」ではなく、従業員を「人格を持った生活者」として見ている証です。さらに、「大人の社会科見学制度(年1〜2回、旅費交通費補助)」や「定期的な飲み会補助(1回あたり1人5,000円)」といった施策は、単なる金銭的還元ではなく、経験価値の提供という新しい福利厚生の形です。

これもまた、「従業員の人生を豊かにする」という経営思想から生まれた施策だと言えます。

上場企業にはできない「人事採用の大胆な施策」

出戻り制度、社内起業制度、大人の社会科見学——非上場だからこそ実現する制度群

ここで、NEXTが導入している制度の中で、特に革新的なものに注目してみましょう。出戻り制度——一度退職した社員を再度雇用する制度です。一見するとシンプルですが、上場企業では実施が難しい場合が多いです。

理由は、人事評価システムや給与体系の複雑性にあります。かつての給与等級に戻すのか、現在の市場価格に合わせるのか、退職期間中のキャリアをどう評価するか——こうした判断が、人事評価会議や株主への説明を必要とするからです。NEXTはこれを「柔軟に」実行できます。

なぜなら、経営陣の判断で「この人材は今の会社に必要」と判断できれば、その意思を即座に組織に落とせるから。結果として、優秀な人材が一度は去ったとしても、「やっぱりこの会社に戻りたい」と思ったときに、その道が開かれているのです。社内起業制度も同様です。

「この事業を立ち上げたい」という従業員の想いに対して、固定給を支給しながら新規事業にチャレンジさせる——これは、失敗のリスクを企業が吸収する、非常に太っ腹な制度です。上場企業で同じことをしようとすれば、事業計画の詳細な検討、ROIの試算、リスク管理の複数段階の承認が必要になります。失敗時の説明責任も重い。

NEXTは違う。経営の自由度が、人材育成の自由度に直結しているのです。プロセス評価も特筆に値します。

多くの企業は「結果が全て」という成果主義を掲げていますが、実際には結果が出るまでのプロセスを軽視するあまり、燃え尽きや心理的な圧迫を生む傾向にあります。NEXTは「結果だけでなくプロセスもしっかり評価する」と明言しています。これは何を意味するか? 失敗を許容する文化です。

挑戦の過程で失敗は避けられません。その失敗から学ぶプロセスをしっかり評価することで、「次にどう活かすか」という成長が促進される。この評価軸も、経営の自由度があってこそ実装できるものです。

プロセス評価で「結果至主義」から解放する組織文化

現代のビジネス現場では、「成果主義は正義」という価値観が支配的です。しかし、冷静に考えてみると、これは非常に危険な思想です。なぜなら、人生100年時代において、毎月毎月「結果」だけで評価されることは、心理的な圧迫になるからです。

NEXTがプロセス評価を重視する背景には、「人材育成は長期戦である」という認識があるのでしょう。非上場だからこそ、短期的な成果に一喜一憂する必要がない。中長期的な視点で、どのように従業員が成長し、どのように組織が進化していくかを見守ることができるのです。

これは採用の観点からも、大きなメリットがあります。求職者のうち、特に若い世代や、キャリアチェンジを考えている人々は、「結果で評価されるプレッシャー」に不安を感じることが少なくありません。NEXTのような「プロセスも評価する」という姿勢は、そうした不安を払拭し、「この企業なら、失敗を恐れずにチャレンジできる」というメッセージを伝えるのです。

サントリー、竹中工務店も選んだ道——戦略的非上場という選択肢

「非上場=経営不安定」という誤解を解く

ここで、一つの誤解を解いておきましょう。「非上場企業=中小企業で経営が不安定」という認識です。これは、完全な間違いです。

世界を見れば、意図的に非上場を選択している大企業は数多く存在します。サントリーホールディングス——飲食業界の巨人ですが、非上場です。上場による資金調達の必要がないほどの経営基盤を持ちながら、あえて非上場を選択している。

理由は、経営の自由度を最優先するという思想です。竹中工務店——日本を代表するゼネコンですが、やはり非上場。経営の独立性を維持することで、長期的な視点に基づいた経営判断を可能にしています。

YKK——ジッパーで世界的に知られた企業ですが、非上場です。長期的視点での経営重視が、その非上場方針の根拠です。これらは全て、「上場できないから非上場」ではなく、「上場しない方が戦略的に優位だから、敢えて非上場を選択している」企業です。

その選択の中には、高度な経営思想が込められています。

意図的に上場しない大企業の思考から学ぶ、NEXTの立場

こうした大企業の選択から、我々は何を学べるのか。それは、「企業規模や成長の大きさと、上場の是非は関係ない」という認識です。上場とは、単なる資金調達手段の一つに過ぎません。

その企業の経営思想によっては、非上場の方が、より高度な経営を実現できるのです。NEXTの立場は興味深いです。現在60名の従業員規模ながら、サントリーや竹中工務店と同じ思想——「非上場であることで、経営の自由度を最大化する」という選択を、明確に打ち出しています。

言い換えれば、NEXTは「いつでも上場できる成長スピード」を保ちながら、「上場企業を圧倒的に超える従業員還元」を実現しているのです。これは、単なる経営判断ではなく、経営思想の表現なのです。

採用市場で何が変わるのか——成長企業における「待遇の透明化」

短期的な株価変動に揺れない、安定した給与・福利厚生の提示

採用市場は今、大きな変化の渦中にあります。かつては「大企業=安定」という構図が支配的でしたが、現在では多くの大企業が経営の効率化に伴う待遇削減を余儀なくされています。一方で、非上場の成長企業は、逆の道を歩んでいます。

短期的な株価変動に左右されないからこそ、給与・福利厚生の向上を一貫して追求できるのです。求職者の視点から考えると、これは極めて重要なポイントです。「この会社の給与は、今後も安定しているのか、それとも経営効率化の波に飲まれるのか」という不安は、職選択の大きな判断材料になります。

NEXTのような非上場企業の給与・待遇は、その企業の経営思想に基づいているため、経営者の判断がある限り、一貫性を保つ可能性が高いのです。

経営戦略を隠さず、従業員と長期ビジョンを共有する組織設計

さらに重要な点として、情報開示の自由度があります。上場企業は、有価証券報告書という形で、経営戦略や財務情報を詳細に開示する義務があります。これは株主への責任を果たすためですが、同時に、その情報が競合他社にも届くということです。

非上場企業は、この開示義務がありません。つまり、経営戦略や財務情報を、従業員とのみ共有することができるのです。企業の成長戦略や経営ビジョンを、競合他社には見せず、従業員とは深く共有する——このアシメトリーな情報構造は、従業員のロイヤリティを高める大きな要因になります。

従業員が「この会社がどこに向かっているのか」を明確に理解できれば、自分の仕事が会社のビジョン実現にどのように貢献しているかが見える。その結果、単なる「給与を得るための労働」ではなく、「ビジョン実現への参画」として、仕事に意味を感じられるようになるのです。

結論:非上場戦略は「人事採用の武器」になる

上場と非上場の差異は、単なる資金調達方法の違いではありません。それは、経営思想の表現であり、人事採用戦略の根本的な差異なのです。NEXTが非上場を選択し、上場企業を超える従業員還元を実現している事実は、採用市場に一つの新しい軸をもたらします。

それは、「大企業か、スタートアップか」という二項対立ではなく、「経営の自由度に基づいた人材戦略」という新しい競争軸です。非上場企業の採用担当者は、こう言うことができます。「私たちは、上場企業にはできない速度で、従業員の待遇向上に取り組んでいます。経営者の判断で、明日からでも新しい制度を導入できるのです。」求職者の視点からも、この差異は明らかです。

安定した大企業か、成長性の高いスタートアップか、という古い選択肢ではなく、「短期的な株価変動に左右されず、一貫して従業員還元を追求する企業」という、第三の選択肢が現れているのです。2015年の設立から約10年で、NEXTが築き上げた採用戦略は、決して「年収1,000万円も可能」という数字だけではありません。それは、「非上場を戦略的に選択した企業だからこそ実現する、経営の自由度と従業員への誠実さ」の総体です。

これからの採用市場において、経営思想の透明性と一貫性は、給与や福利厚生と同じくらい重要な採用要因になっていくでしょう。その意味で、NEXTのような企業の存在は、採用市場全体に対する一つの問い掛けであり、企業経営に関する新しい視点を提供しているのです。

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